マネジメント実験室

小さな企業の経営・マネジメントを通して日々考えたこと、学んだこと、感じたことを。

コムスンの不正で介護保険に関心が集まった?

コムスンが常勤ヘルパーの虚偽登録によって事業所認定を受け,介護報酬を不正に受け取っていたということ。都から不正請求分の返還を求められています。
もし,これが常勤ヘルパーの採用が追いつかず,事業所認定を受けながらも実態が伴っていなかったというなら,同情の余地はあると思います。
もちろん,嘘の報告で不正に認定を受けているわけですから,“不正請求”に違いはないのですが。それでも,実際にヘルパーが稼働し,お客様へ同質のサービスが提供されていたのならば,体制を改善すればよいことです。
ただ,一部マスコミで言われているように,ヘルパーを架空登録し,労働の実態が無いにも関わらず,さもサービス提供が成されたかのように申請されていたとしたら,これはもう犯罪です。


■自由競争に水を差す
これら大手企業系の介護サービスに不正が出てくると,「やはり福祉は完全自由競争ではなく,国の介入が必要だ。」という論調が強まるのではないかと心配です。
病院の患者へのサービスがいまだに旧態依然として立ち遅れているのは,医療保険制度によって自由競争が阻害されているからという面は否定できません。同様に介護業界も国の介入が強くなるほど健全さを失っていくのは火を見るより明らかです。
まっとうにサービスを提供してもしなくても,得られる報酬に上限があるならば,できるだけ手をかけずに,しかも人件費を抑えて利益を大きくしようとするのはあたり前です。いい悪いではなく,必ずそういう方向に流れていくということです。だから自由競争が悪いのではなく,中途半端に国が利益操作できるような介入を行うからではないでしょうか。
そういう意味においても,今回の不正問題はとても罪深いと思うのです。自由競争による福祉サービスの健全な発展に水を差してくれました。


■介護報酬はほんとうに低いのか?
コムスンの不正が取りざたされてから,業界内で介護報酬に関する議論が再燃しているように思います。
たしかに訪問介護にしても,実際に人を抱え,現場を抱え,そこで労働が発生することを考えたら,決して割りのいい商売とは言えないでしょう。だからこそ,損益分岐点を超えるために,いち早く拠点拡大が必要だったわけですし,ヘルパーの低賃金労働が前提だったわけです。それに2006年の介護報酬改定が追い討ちをかけているならば,今一度議論がなされてもよいはずです。
ただ,いくら議論しても報酬操作という国の介入がなくなるわけではありませんから,自然な流れとして,経営の合理化や事業者の整理統合が進まざるを得ません。それでも“介護関連事業”が旨みのない事業であり,人材の確保も難しいのであれば,撤退もやむなしというところでしょう。
いままで散々制度の抜け穴を利用して甘い汁を吸ってきたのだから,少しくらい痛い目に遭えばいいという意見もあるでしょうが,業界として健全に発展していかなければ,将来の利用者も含めて困るのは国民です。私自身は,現場の実態を把握できない国が介入するようなことはやめて,価格設定を含めて自由化してしまえばよいと考えています。


■それなりに意味があった介護保険制度
介護保険制度はそれはそれで意味があったと思います。介護ヘルパーを始め,新たな雇用を創出し,福祉系に人材を集めました。それまでは,“家政婦”という名のもとに,“紹介所”から人を紹介され,当たり外れが当然のこととしてあきらめられていたような業界でした。
それを身体介護,生活支援という目的が明確にされ,資格制度も導入されました。「素性もよくわからないワケありのオバサン」に代わって,志を持った若い人材や普通の主婦も集まりました。
現場で出会う若者の中には,真面目で,とても感じがよく,勤労意欲の高い人たちもたくさんいます。
制度が整い,人材も集まってきたわけです。
問題はここからだと思うのです。
今回のような不祥事があったから,ますます国の介入度を増すのか,それとも介入の仕方にも問題があるという視点に立って,介入の適正化と民間への開放を進めるのかどうか。
生活保護のように,国民として最低限の保障は必要ですが,それ以上はそれぞれの経済力によって格差が生じても仕方がないのだと思います。現状だって,介護ヘルパーが保険適用の時間帯を超えて,自費で入っている世帯も多いのですから。もっと自由化されたサービスが広がるべきです。
導入部分と助走部分の国としての役割は果たしました。あとは健全な発展を促すための最小限の介入にとどめるべきではないでしょうか。


■海外からの労働力導入もやむなしか
もし,今後も介護保険制度をいまのまま維持し,一定水準のサービスを国民から徴収した保険金だけで賄おうとすれば,介護ヘルパーの低賃金労働も続くことになります。おそらくよい人材は景気の回復とともに,他サービス業界に流出し,人材面からも制度運営が厳しくなるでしょう。そうなれば,フィリピンなどすでに介護系人材の海外輸出に実績のある国から,人材を受け入れなければならなくなるでしょう。私は看護師も含めて,海外からの人材流入は賛成です。
海外から人材が流入すると,日本人との競争が始まるため雇用がなくなるとか,サービスの質が低下するという意見があります。これは考え方次第で,日本人の方が賃金が高ければ,付加価値の高いサービスに日本人を回すとか,日本人を管理者としてチーム制を採るとか,いろいろな方法があるはずです。
単に日本人の雇用を守るために海外からの人材を締め出していては,人材不足はいつまでたっても解消しませんし,競争がない分サービスの質も向上しないし,またサービスの多様化を阻害することにもなりかねません。競争がなければ工夫もないし,多様化も促進されません。


■関心が集まる効果
今回の一連の不祥事で,介護保険制度に対して,これまでよくわからなかった人たちの関心も集まりました。私自身は不完全でおかしな介護保険制度などはなくなって,全て自由化すればおもしろいと考えていますが,せっかくの制度ですからこれを機に不備な点は改善すればよいのではないでしょうか。
と言いながらも,財政赤字解消が最優先の改正しかなされないこともみんなよくわかっているところが悲しいですね。
しかし,日本の役人が考える制度というのは,どうしてああもごちゃごちゃとややこしく,細かい指示がたくさんあって,その割には抜け道があるような制度なんでしょうか。