■かつての上司の良し悪し
自分が上司という立場を経験して初めて,かつての上司の良し悪しを自信を持って判断できるようになった。
それと同時にいまならかつての上司が私に求めていたことがよくわかる。
いまならもっと上手に上司を操縦できるのに,残念でならない。
というか,当時それができなかったからいまに至っているのだ。
約10年前に,「この人の下に付いてると,部下は大変だな。」という上司の下で働いていた。
何が大変かというと,その上司はマネージャーという立場だったのだが,その上に部長がいて,その部長からのリクエストに対しては,決して『NO』とは言わないからだ。
「○△くん,例の件はもう動いているの?」と部長から質問が飛ぶと,
「ええ。もうみんなに説明はしました。」(みんなとは部下のことだ)
「☆□くんさあ,こないだ話した件だよ。話したよね。」と私に振ってくる。
多くの場合,詳細はほとんど聞かされていない。どこかで雑談のように話題にされたり,ときとして飲んでる席で出た話題だったりする。
ほとんどアイデアベースで,ほんとうに検討課題になるとは,おおよそ受け取れないような伝え方である。
そこで,「なんの話でしたっけ??」というリアクションは,決してしない。知らないというリアクションを私のプライドが許さなかったからだ。マネージャーが発する2,3のキーワードを聞いて,それでも思い出せない場合はイマジネーションを駆使して,「確か〜〜の件でしたよね。」と打ち返すようにしていた。違ってもいいのだ。違っていれば,いやいやそっちじゃなくて,ホニョホニョの件だよ,と続けることができる。
マネージャーも恐らくは,部長からアイデアベースで課題を聞かされていただけだと思う。
次々と課題を繰り出してくる部長であったので,全てに応えることは不可能だ。だから,2度,3度話題に上って初めて重要課題として取り上げるようにしていたのだろう。私がマネージャーの立場でもやっていたかもしれない,とは思う。
しかし,このマネージャーの困るところは,こちらがほとんどアドリブに近い対応をしなければならないほど情報提供がアバウトだったことだ。
業務課題も詳細に伝えられたことはない。ほとんど口頭ベースでこちらが翻訳せざるを得ない。
それが可能だったのは,部下が優秀だったからだと今更ながら思う。普通ならこんな乱暴なマネジメントは不可能だ。
当時は,こういう乱暴でアバウトなやり方に納得できなかった。いま考えても,他にやりようがあっただろうと思う。
しかも,こういった部下に負荷をかけて上司にいい顔をするタイプだから上からの信頼は厚い。マネージャーの不平不満を言うと部長に睨まれた。
部長に名指しで呼び出されて説教されたこともあった。
当時は不平不満があっても単に部下の愚痴としか受け止めてもらえず,苦しい時期が続いた。部下を持つ立場に立ったいま振り返っても,やっぱり彼らのマネジメントは乱暴だったと思う。
■私はどうするべきだったのか
当時の私は結局このマネージャーのやり方を変えることはできなかった。変えようとしなかった。とにかく持ち前の臨機応変さでリクエストに応えていただけだ。私はもっと積極的にこのマネージャーとの共犯関係を作るべきだったと反省している。
私は自分に自信を持つあまりに,常に上司からも独立した存在であろうとした。自分は仕事を任せるに足る存在だとアピールしたかった。
そんなことは上司も理解していたのだ。任せられるからアバウトで済ませたわけだ。部長からの課題であるのにアバウトな指示で済ませられたのは,我々部下が優秀だと理解してたからである。だからこそ,もっと積極的に共犯にすべきであった。もっとこまめに状況を共有し,最大の難関である部長に対して共犯であるべきであった。ホウ・レン・ソウの基本中の基本なのだが,なまじ仕事ができるばっかりに負わなくてもいい負荷を負ってしまっていた。
成果なんて全部マネージャーの手柄にしたっていいのだ。マネージャーは部下を育ててなんぼなのだから。
ということで,かつての失敗を活かして,いまの私は常に社長を共犯者にしようと企んでいる。
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