読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

マネジメント実験室

小さな企業の経営・マネジメントを通して日々考えたこと、学んだこと、感じたことを。

経営意思決定の原点

経営に関する書籍には,優れた意思決定を行うためにはどうすればよいか,という指南書の類が多い。この本は,そういう指南書ではない。


一言で言うと,『経営にとって意思決定とは何か』ということを書いた本である。


経営に関心のあるビジネスパーソンであれば,ケーススタディーを通して経営戦略について勉強する機会があると思う。しかし,いざ実際に経営に近い立場で意思決定をする様になると,ケーススタディーとは勝手が違う,というよりも全く別物だと感じることが多い。


経営意思決定の原点

経営意思決定の原点


ケーススタディーは,実際にあった経営課題を追体験することで,意思決定に至る過程を,意思決定に必要な分析や情報収集なども含めて疑似体験できる。一人での学習だけではなく,グループディスカッションを通して,人によって意思決定にはいろいろな視点があることも学べるし,思考が深まる。


しかし,実際の経営課題に対する意思決定の場面では,自分一人の思惑だけで意思決定できることは少ない。他人の感情がからんだり,社内のパワーバランスが微妙に,しかし非常に大きな影響力を持って絡んでくる。極端な話,正しいと思ったことを意思決定できない場合もありうる。
また,ケーススタディーでは正しい経営判断をすれば,組織はその決定にしたがって動くことが前提であるが,そもそも組織というのは人の思惑通りにはなかなか動いてくれないというのが本当のところである。


本書にも随所に例が出てくるが,成功体験を持ったCEOですら,次に正しい経営判断ができるとは限らない。意思決定というのはそのくらい環境に左右される微妙なものだということもある。


本書では,正しい経営判断,意思決定を行うために必要なことは何かを教えるというアプローチではなく,正しい意思決定を阻害する環境的要因や心理的因子についてや,意思決定したことが実行されない組織の特徴について体系的に触れることにより,間違った意思決定をしても修正したり,そもそも間違っていることに気付くためにどうあるべきかを見せるというアプローチを採っている。

結局,経営のもっとも大きな問題は,さまざまな課題にこれといった解決策を見出せないことではなく,そもそも課題を見逃したり,あるいは出来あいの経営手法を取り入れて解決した「つもり」になることではないでしょうか。−あとがきより−

このあとがきに著者の思いが凝縮されているとも言える。


第一部:経営意思決定の基本要素
第二部:組織の意思決定に見られる病状
第三部:組織の意思決定力を高める


第一部では組織において意思決定する際にありがちなバイアス(心理的落とし穴)やグループでの意思決定だからこその落とし穴の例を挙げ,間違った意思決定を犯しがちな状況に触れている。身近な会議でも見られがちな意思決定までのプロセス,特にベターとは言えない結論を出してしまう状況がなぜ起こるのかなどにもあてはまるだろう。


第二部では経営における意思決定が機能しない状況を典型的なパターンに分けて分析している。どこの会社でも必ずあるような経営意思決定の失敗パターンが見つかるだろう。


第三部では組織の経営意思決定力のポテンシャルを決めるのが,「敏感力」,「コミュニケーション力」,「バランス力」の三つの組織力だとして,それぞれの力を上げるための処方箋が述べられている。


全てを通しての感想は,組織において正しい意思決定を行うための決定打というべき処方箋はなく,どんなに優れた経営者,組織であっても結果的に間違った意思決定を行うことがあり得るということ。


前述の“あとがき”にあるように,問題はそれが間違った意思決定であると認識できるかどうか,認識できたとしても間違いの本質を本当に理解しているかどうかということ。


経営課題というのは大抵複合的要因によって引き起こされていることが多いので,どの意思決定が現在の悪い状況を引き起こしているのかを特定するのは容易ではない。ただ,間違った意思決定を犯しやすいパターンを知っているだけでも,特定するための一助にはなるであろう。