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マネジメント実験室

小さな企業の経営・マネジメントを通して日々考えたこと、学んだこと、感じたことを。

理系好きな子供を増やすと理系人材が増えるだろうか?

■継続的な興味喚起が必要

理系離れ対策として,子供たち(小学生くらい)に理科や算数のおもしろさを伝え,理工系の分野に興味を持ってもらうことで,将来の理系人材を増やそうという意見があります。


ここで言う「理系人材」とは,特に工学系(モノ作り・ハード系),IT系(システム系)などに関わるエンジニアを指しているものと思います。


興味を持つきっかけを増やすという点では効果があるはずですが,各年代(中学生・高校生)になっても継続的にやらないと,興味を持続させることは難しいでしょう。


小学生に対しては,まず導入編として,自然科学や科学技術に興味を持ってもらえるような内容にするのだと思いますが,そういう“楽しい部分”は単なる興味や知識に終わる可能性があるので,中学生,高校生と上がるにつれて,実際のモノ作りに直結するような具体的な内容にしていく方が効果が上がるはずです。


中学,高校と上がるにつれて,理系分野への興味だけで進路を決める可能性は低くなり,もっと広い視野を持って,社会的・環境的な要因で将来の職業を選ぶはずだと考えるからです。


■興味があっても職業にするにはハードルがある

単に理科好き,科学好きの子供たちを増やすだけではなく,将来の理系職業人につなげることは難しいと私は考えるのですが(恐らくどの職業でもそうでしょうが),それは子供というのは基本的に知識欲旺盛なので興味を喚起するというハードルはそれほど高くないのだけれども,職業になると興味だけでは無理で,向いている向いていないとか,基本的な素養・素質が要求されると思うからです。


訓練と努力次第で可能な職業とそうではない職業というのがあって,エンジニアというのは数字に対する感覚とか論理的な思考力とか,訓練だけでは難しい部分が要求される職業だと考えています。


運動能力の高い人がプロスポーツを目指したり,音感やリズム感の優れた人が音楽家を目指すのと同じように,生まれ持った素養・素質で理系向きという人とそうでない人というのが居るのだと思うのです。(そもそも好き嫌いもあると思いますし。)


要するに適性ということだと思うのですが,理系職業=エンジニアにも適性というものがあって,単に理科好き,科学好きとは別の適性ではないかということです。


理科好き,科学好きの子供たちを増やすというのは,これまで自分の適性に気付かなかったような理系向きの子供にきっかけを与えるという点で,理系職業人の候補者数を増やすことにはつながるでしょう。母集団が増えれば必然的にエンジニアになる人が増えるというのであれば,試みとしては正解だと思います。


ただ,本気でエンジニアを増やしたいのであれば,本人の気付きを促すといった程度では弱く,もっと政策的に選抜して育てていくことをしなければ,飛躍的な増加というのは見込めないでしょう。


例えば,動物好きな子供はたくさんいるので,獣医さんになりたいと思ったり,もしかしたら動物学者,生物学者などアカデミックな方向に進みたいと思う子供も多いかもしれませんが,実際には子供時代の夢で終わります。それは能力が無いからというよりは,成長にしたがって世の中にはもっと興味を引かれるものがあり,進路を決定するような時期に出会った強烈なものに影響を受けやすいということがあるのだと思います。


向いたもの,適性のあるものを必ずしも職業にしないというのはよくあることです。ほとんどの人はそうかもしれません。人は環境に左右されやすいので,持続的に興味を喚起し,刺激を与えるような環境でないと,その時々の個人のトレンドで将来を決定することが多いのではないでしょうか。


大学生になっても将来の職業を決めていない人が圧倒的大多数で,多くは就活を意識し始めて初めて職業について考えます。多くの職業はそれでも全く問題が無く,法学部,経済学部,商学部などいわゆる文系学部というのは,多種多様な職業へのフリーパスを持っているのと同じです。


ところが理系職業,ここで取り上げるエンジニアなどは,就活時点からでは進路変更は難しいでしょう。高校生の頃,数学の成績が抜群に良くても経済学部出身の場合はメーカーのエンジニアとして採用されることはあまりないと思います。SEなら有り得ると思いますが。システム系かコンサルタントか,それはわかりませんが,数学的なセンスを活かした職業に就くことは本人にとって良い選択かもしれませんが,それでエンジニアが増えるということにつながらない場合も多いでしょう。


つまりエンジニアに関しては,もっと早い段階から進路を意識させるような環境が必要だということです。もし,意図的に数を増やそうとするならです。


■“選抜制”へのアレルギーもネック

今でも私立の高校などで『理系特進クラス』というような名称で,大学の理系学部あるいは理数系科目が強いことを要求される学部への進学に特化したクラスを設けているところもあります。


国の政策では,スーパーサイエンスハイスクールという国家予算を使った理数系学生を増やす試みがあります。


もし理数系を志すためのインセンティブを高めるのであれば,理数系学生に対して国家予算を使って学費控除・免除という手があります。国家レベルの施策で理数系学生を増やすのです。


しかし,これには難しい問題があって,日本の社会というのは個人レベルでは英才教育とか選抜制というのは容認されやすいけれども,国の政策として特定の能力を持つ子供を選抜し,英才教育するということには抵抗感があることです。


ある目的地に自分の努力で到達した者に特典を設けることには抵抗が少ないのですが,目的地により早く到達できそうな者を選抜して特典を与え,目的地に到達してから以降の活躍を促すというということには抵抗があります。


具体的には,理数系学部の学生に学費面で特典を付けることには抵抗は少ないと思うのですが,理数系学部に進学する中学生・高校生を選抜して特典を与え,早い内からエンジニアの卵を養成することには抵抗は大きいだろうということです。


■国策として取り組む弊害

ただ,私個人としては,国策として理系職業人(ここでは特にエンジニア)を増やすために,子供たちを早い段階から選抜して育成するというのはあまり賛成ではありません。


今から約20年以上昔の話になりますが,当時から台湾は技術立国を国策として取り組み,教育に関しても理系(技術系)に力を入れ,選抜制なども行っていました。当時東京大学の大学院に台湾から留学し,電気電子系で博士号を取得しようとしていた方と交流があったのですが,小学生くらいから選抜制度があるらしく,あまり遊ぶ機会もなかったということも言っておられました。もちろん国費で留学していたので,研究成果を持ち帰り,台湾の技術力向上の中心的役割を担うという重責を負っていたのだと思います。


いま日本で国策として“選抜制”などに取り組んでしまうと,ある種の“専門バカ”を大量に生み出してしまう可能性があります。


お手本になる技術があって,それに追いつくことが第一命題である時代には機能すると思いますが,より創造的,画期的な技術が求められる時代にはもっとバランスの取れた専門家が必要とされます。


本当の意味でのエリート教育が必要になるのですが,いまの日本社会の成熟度でそれが可能なのかどうか。


既得権益の拡大だけが自己目的化した官僚のような“専門バカ”を大量に生み出すのでは元も子もありません。


それならば,理系人材が不足して将来を危惧している方がまだマシだと思うのです。


ただし,理系人材の発掘に限らず,子供たちがもっと早い段階から将来の職業について真剣に考えられる機会を強制的にでも設けるということには意味があると思います。


未熟ながらも職業観というものがあって,それをベースに何を学べば良いのかを考え,大学や学部を選択するというあたり前のことが一般化してくれば,さらに一歩進んで“選抜制”のような国策としての英才教育制度が出てきても良いのかなと考えています。

理系離れは先進国病?〜マネジメント実験室〜