マネジメント実験室

小さな企業の経営・マネジメントを通して日々考えたこと、学んだこと、感じたことを。

理系のマネジメント

私はもともと理科系(工学系)の出身である。研究開発や生産現場のキャリアが最も長い。この日記のタイトルを『マネジメント実験室』としたのも,“仮説・検証の場”というイメージには“実験室”という単語がピッタリくると感じたからだ。私のマネジメントスタイルの重要な部分も,エンジニア時代のアプローチと共通点が多い。
工学系の研究は,ある現象に対する仮説とそれを証明するための実証データによって成り立っている。マネジメント=経営もかなりそれに近いのではないかと感じている。実際のマネジメントには,“人間”という不確定要素が入ってくるが,これは生産現場でも同じだ。
私たちが社会に出た十数年前には,理系の人材はコミュニケーションが不得意で,人を扱うマネジメントには不向きな人が多いというイメージが企業側にあった。理系というと,研究室で好きな研究に没頭している孤高の研究者というのがわかりやすいイメージだったからかもしれない。理科系の学部を出て,金融や証券や商社に就職することを,わざわざ“文転就職”と呼んで区別したりもしていた。
いまビジネス界では理科系出身で活躍しているマネージャー=経営者も多い。私自身は理科系の素養が無い人は,経営者には向いていないのではないかとさえ考えている。経営が数字を扱うという単純な理由ではなく,仮説・検証,論理的な思考,物ごとを定量的に把握する能力など,これらは理科系の素養としては必須だからである。法学部でも経済学部でも出身は何でも構わないが,これら理科系の素養・センスが無ければ経営者としては難しい。

理系の経営学』 日経BP社 宮田秀明

もちろん,理科系の素養は必要条件であって,理科系出身者が全て経営センスを持っているわけではない。経営のプロになるためには,経験と訓練が必要であることは言うまでもない。
シリコンバレーの技術系ベンチャーでは,技術系の創業者が立ち上げ,ある程度軌道に乗ったら,経営のプロフェッショナルに経営実務をバトンタッチするのが一般的である。これは創業者が研究・開発といった理科系のエキスパートであることが多く,必ずしも経営のプロではないためである。
バトンタッチされる経営のプロは技術系エキスパートほど技術のプロである必要は無いが,経営に必須である理科系の素養・センスは有しているはずだ。
GEのCEOであったジャック・ウェルチも専門は“化学工学”である。彼の思考は理科系人間の思考そのものだ。
かつて技術立国として世界を席巻した日本の地盤沈下が叫ばれているが,理科系経営者を育成してこなかったツケなのではないか(ちょっと極論か)。理科系出身というだけで研究所,技術開発,生産,工場に機械的に振り分け,その中でスパイラル的な昇進をさせ,マネージャー=経営者になるための教育,訓練を企業が怠ってきたからではないだろうか。理科系出身者を文字通り理科系のエキスパートとしてしか活用してこなかったのだ。
飛躍的な躍進をしているサムソンも経営陣はほとんどが工学系の修士,博士である。
ゼネラルマネージャーは文科系という旧態依然とした発想を捨て,理科系素養を持つ人材を将来のマネージャー=経営者候補としてどんどん教育していくべきでは。経営現場の実践経験を踏ませて,経営がいかに工学的アプローチと類似しているかを実体験させれば,経営人材はもっともっと出てくるはずだと考えるのだが。