■実践がもっとも効果的
接遇やマナーは実践で鍛え,身に付けていくしかなく,セミナーなどによる教育は基礎知識の習得と,あくまできっかけに過ぎないと考えています。
現場で働くナースに対しては,導入教育の一環として『接遇・マナー』について教えますが,あくまで基本的なことしかやりません。
私たちが提供する看護サービス(『アラジンケア』ブランドのプライベート看護)は接客サービスの一種ですから,もちろん接遇・マナーはとても重要ですが,決して洗練されている必要は無いと考えています。ですから,最低限の常識的なことは教えますが,それ以上は実際の接客を通してスキルアップしていってもらいます。
ナースは自他共に認めるように,一般社会常識については非常識ですから,導入教育もかなり基本的な知識の提供になります。
例を挙げると・・・
・家に入る前にコートを脱ぐ
・脱いだ靴は揃えて,邪魔にならないように玄関の端に置かせてもらう
・お客様とどんなに親しくなっても馴れ馴れしい言葉遣いは慎む
・相手を尊重して言葉遣いを考える
などなど,ほんとうにあたりまえのことばかりです。
■ナースは常識を身に付ける機会がない
ナースは看護学校を出て,すぐに病院などの医療機関に就職(入職)してしまいますので,ビジネスマナー,接客マナーなどは教育される機会がほとんどありません。
最近では,一部の大きな病院などでは入職時教育として行っているようですが,病院に行けば誰でもわかるように,それはもともと基礎マナーを身に付けているような一部のナースにしか効果はないようです。多くのナースは社会人としての常識を身に付けることなく職業経験を積み,特殊な社会人集団を構成していきます。
患者もその家族も,お世話になるナースに対しては少々のことは目をつぶります。多少,気に障ることがあったとしても,それを指摘することは稀でしょう。ですから,ナースたちは外部から指摘されて非常識を矯正していく機会にも恵まれません。
■機会さえあれば鍛えられる
私たちのサービスに従事するナースたちも,こういう特殊な社会で育ってきた人々ですから,最初から接客マナーに長けているわけではありません。それでも,接遇やマナー面で大きなクレームに発展することはほとんどないのです。これは,最初の面接で,あまりにひどいナースには遠慮いただいているという点も大きいのですが,やはり少しずつでも実践で鍛えられていくということが大きいのだと感じています。ナースたちは常識に欠けるところはあっても,置かれた環境に対するアセスメントはお手のものですし,相手の言葉にならない意を汲むことも得意です。
富裕層は人を使うことに慣れていますし,見る目も厳しい。接客態度ひとつでせっかく積み上げた信頼関係を損ねかねない相手です。
こういうお客様のところへ,たったひとりで出向いていき,相手の環境の中で仕事をしなければならないわけですから,そのプレッシャーは相当な強制力として働きます。
しかも滞在時間が長い。場合によっては,12時間前後,家族も居る家の中で,家族に代わって看護をしていることもあります。
こういう環境の中で,徐々に,お客様の要求レベルに合わせて,自分たちを矯正していくことができるのです。
こういう現実を見ると,病院のナースは常識を身に付ける能力があっても,機会と必要性がないから身に付かないだけだと見ることができるでしょう。
■強制力が無ければ鍛えられない
病院と違って,相手(お客様)のフィールドに行って仕事をする環境が接遇やマナーを鍛えることは確かですが,やはり強制力がなければ効果は低いでしょう。
医療保険や介護保険で看護サービスを提供する“訪問看護ステーション”や病院の訪問看護科のナースには,私たちの基準からすると,接遇・マナー面でとてもお客様宅を訪問できるレベルに無い人たちが目立ちます。
もちろん全てがそうというわけではありませんが,総じて“粗い”人たちが多い。
忙しいからなのでしょうが,態度や言葉使いが,“粗く”て“キツい”感じがします。
何だか病院の雰囲気がそのまま出張してきているような感じなのです。
人間的にはとてもいい人たちが多いので,患者の家族という立場では感謝しつつも,サービス提供を受けるお客様という立場からすると「何だかキツくて言葉遣いが粗いマナーのなっていない人たち」という印象になります。
■カリスマナースも接客はバツ
あるお客様宅で,訪問看護では有名な「カリスマナース」と遭遇したことがあるのですが,やはり“粗い”,“キツい”印象が強く,自分たちとは活動するフィールドが違うのだなとつくづく感じたことがありました。
お客様も「彼女たちに態度を改めろと要求することは虚しいこと。保険料払ってるから我慢して使っているだけだよ。」と手厳しい。
要はそれほどのナースであっても,必要がなければ,接遇やマナーというのは鍛えられるということがないのです。
もしかしたら,そんなもの鍛えてる暇があったら,ナースとしての本来の技量を上げるべし,という信念があるのかもしれません。
■いちど身に付いたクセ
ある企業系の訪問看護ステーションは,新たにナースを採用する場合には,訪問看護経験者を採用しない方針を採っているそうです。
専門知識やスキルは,教育でなんとかなるが,一度身に染みてしまった接客態度や接遇のクセのようなものは変えようがない,というのが本音なのだと思います。
ナースを受け入れるお客様側も,病院から独立したような訪問看護ステーションであればしょうがないと思うことでも,企業の看板を背負ったナースに対しては見方が厳しくなるものです。もちろん企業としてのプライドもあるでしょう。
私たちも以前はそうでした。お客様との関係で,細かなクレームが出てくるのは,決まって訪問看護経験者だったのです。
患者に対する言葉が粗い,態度がキツい,看護がザツなど,だいたい言われることは同じです。
最初はそのときどきで本人に指導し,それでもダメなときは他のナースに替わってもらいました。
そういうことが何人も続いたので,懲りてしまって,訪問看護経験者を敬遠するようになってしまいました。
■意識と強制力
最近は,その採用方針を変更しました。
訪問看護経験者には,最初の面接時に,経験者がよく犯しがちな失敗を伝えるようにし,注意を促します。
もちろん,本人にその注意を素直に受け入れ,意識を切り替える意志がなければうまくいきません。
病院はもちろんのこと,訪問看護での経験は,接遇・マナー面においては不十分であること。それ以上に,いまの意識のままではお客様に不快感を与えることも多いことを伝えます。
そこで,自分のキャリアに難くせを付けられたように感じるナースは見込みがありません。なるほどそういうものかと納得してくれるナースは,逆に訪問看護の経験が強みとして活きてきます。
もちろん,そうやって意識を切り替えたナースも,実際の現場に入って鍛えられることに変わりはありませんが。
こうやって見てみると,知識の提供だけでなく,強制力を持ってその知識を実践せざるを得ない環境が成長を促すのですが,本人が意識を切り替えようとして臨まなければ効果は期待できないことになります。
・予備知識
・強制力のある実践的環境
・本人の変革への意識
これらが揃わなければ,接遇・マナーの改善というのは難しいというのが,いまの私たちの認識です。