マネジメント実験室

小さな企業の経営・マネジメントを通して日々考えたこと、学んだこと、感じたことを。

やっぱりみんな知らない〜要介護状態でも病院から追い出されること〜

■入院してからでは遅い,高齢者の介護,自分の介護


サービスの認知度向上のためにアンケート形式のテレマーケティングを実施したのですが・・・


「介護関連の情報はどこから入手しますか?」という質問に,


『いま必要ないのであまり考えたことがない。』 とか 『必要になってから考える。』

といった,現実逃避型の回答が圧倒的でした。


もちろんアンケートの対象者は無作為ではなく,ある程度の高齢者世帯を狙ったもの。
しかも富裕層です。その他,一般の方々も似たりよったりと類推できます。


子供や孫の教育問題なら,きっとあれこれと頭を悩ますだろう彼らも,いざ目の前に迫った自分たちの介護のことになると,途端に思考を停止しているようです。


入院してからでは遅いという現実は,よく知られていません。


高齢者(本人も含め)が入院して要介護状態になったとしても,施設入居や在宅療養について準備をする時間はほとんどないといっていいでしょう。


入院したら,2週間後には病院から追い出されます。


■病院は治療する場へ


2006年度の診療報酬改定によって,病院は高齢者が長居できる場所ではなくなりました。


新たな治療項目がなくなったり,それ以上回復が見込めなくなれば,行き場があろうがなかろうが,病院はシビアに退院を迫ってきます。


病院は経営がかかっているので,「そこをなんとか」という情に訴える手はもう効きません。


さらには,長期の入院も可能であった療養型の病床も,2012年度には38万床から15万床(医療型のみ)に大幅削減されてしまいます。

診療報酬についてはコチラを参考に・・・医知場
http://www.ichiba-md.jp/wakaru/houshu06/houshu1_06.htm

療養病床削減についてはコチラを参考に・・・読売オンライン
http://www.yomiuri.co.jp/iryou/news/iryou_news/20060227ik06.htm


病院は,治療して場合によっては入院しながら経過を観察する場所から,治療して短期間に機能回復させる場所へと変わっています。


■ありがちなパターン


親や自分たちの介護のことは必要になってから考えよう,と思っている方々が,いざ入院して,しかも要介護状態になった場合のありがちなパターンを紹介します。


病気はなんでもいいでしょう。
脳梗塞で倒れるとか,内臓疾患が見つかって手術したけれども,高齢のため完全回復は難しく,全介助までとは言わないまでも,かなりの介護度が必要となったとします。


いまは,検査入院も兼ねて手術日を待つといった悠長なことはせず,手術日に合わせて入院をします。


入院したら,そこから2週間のカウントダウンが始まります。


入院したら元気になって元の生活に復帰してくれると思っていたら,要介護状態になってしまいました。若い方なら医療ミスを疑うところですが,高齢者であれば手術を境に寝込むということはありがちなことです。


ここからが大変です。


要介護状態になったからといって,介護保険の申請をしているわけでもなく,そもそも介護保険をどうやったら受けられるのかもわかりません。


慌てて,医療相談窓口に駆け込んで,ソーシャルワーカーから説明を受けたり,ケアマネージャーを決めなければいけないと知って,電話をかけたり・・・。


介護保険は認定が遅れても,さかのぼって適用することは可能ですが,そんなことより要介護者が退院するというのに,家には介護用ベッドすら準備できていないのです。


あれやこれやで家族が駆けずり回って,やっとの思いで介護の準備を整えたとしましょう。


ここで出てくる大きな問題は,誰が介護をするかです。


■施設に行くのか,自宅で療養するのか


もし,誰も介護する人間がいなかったり,同居者も高齢で介護することが無理という状態であったなら,施設への入居が最も可能性の高い選択肢です。


要介護者の介護度によって,入居できたりできなかったり。これは調べないとわかりません。
たとえ,完全介護,完全看護を謳っていたとしても医療的に手のかかる入居者は断られます。


これはあたり前の話で,施設は病院に比べて介護基準,看護基準が低くてよいのです。ワンフロアーに常勤の看護師が1人いれば完全看護を謳っている施設もざらにあります。


それでも,退院までに施設が見つかればラッキーな方です。普通は見つからないまま退院となり,しばらく自宅で面倒を見ながら施設を探し回ります。


誰がいつ探し回るのか。


子供の世代とその配偶者が仕事を休んで平日に探し回るのです。新幹線や飛行機で行ったり来たりということもありえます。



運よく,自宅には介護者がおり,自宅療養が可能なら大丈夫かというと,そんなに甘くはありません。


各種の保険サービスを受ければ,なんとか自分たちの力で介護できるならまだましでしょう。


要介護者の容態によっては,気管切開されたり,栄養や水分摂取のためのチューブ類が付けられることもありえます。


自宅で介護するためには,これらの見たことも触ったこともない医療器具やチューブ類をきちんと扱えるようにならなければいけないのです。

しかも,入院からたったの2週間しか余裕はありません。


事前に心の準備がなければ大変厳しいのが現実です。


■退院させるまでが病院のミッション


要介護者を治療するにあたって,退院後に施設入居や自宅療養をするというイメージをしっかり持って対応してくれる病院ばかりではありません。


気管切開その他,日々あたり前のように病院で施される医療行為が,病院以外の医療の場において,どのように影響を与えていくのかをイメージしている医者ばかりではありません。


一旦,気管切開をしたら吸引その他,どれほどの介護力が必要となるか,家族にとってそれが最善の選択になるのか,といったことを家族と何の相談もしないで手術をする例は山ほどあります。


「入院しちゃって気が付いたら気管切開されていた。」というのは冗談ではなく,本当によくある事例です。

病院のイメージ力欠如が地域医療を阻害する
http://d.hatena.ne.jp/biz-high/20070504

■まずは事前に情報入手すること


家族の誰かが,いざ要介護状態になれば,このように生活スタイルは激変せざるを得ません。

しかも,入院からたったの2週間で変わってしまうのです。


できることは,そうなる前に情報を入手しておくことです。


○まず,施設入居を考えるのか,自宅で療養するのかをそのどちらのケースについてもイメージを持っておくこと。
施設なら候補をいくつか当たっておくべきでしょう。それぞれ特徴がありますし,入居したいからといってもほとんどはすぐには入居できません。


○介護保険申請から各種サービスを受ける前の流れを知ること。
地域には介護プランを立ててくれるケアマネージャーが必ずいます。そういう事業所が近くにあるかどうかを知るだけでも安心感が変わってきます。


○入院したら治療方針についてきちんと説明をうけるようにする。
退院した後,どういうことが想定されるのかについてきちんと説明をしてもらう。とにかく退院させるための間に合わせの治療はさせないことです。


以上,心がけておくだけでも,随分違うはずです。