■ゆとり世代は理系の学科がきらい
なぜ急に“理系離れ”の話題かというと,以下の記事を読んで直感的に関連を感じたからです。
この記事で対象にしているのは,この春から新卒社会人となる“ゆとり教育世代一期生”ですが,我が家の中学生になる息子も,これと全く同じようなことを口にします。
【3】明日は良くならない!? | BPnetビズカレッジ | nikkei BPnet 〈日経BPネット〉より抜粋
未来を楽観しにくい環境で育った彼らは、自分の成長や将来につながる機会だと感じると貪欲に取り組みます。
一方で「いつか役に立つかもしれない」といったあいまいな事柄に時間を使うことを嫌う傾向があります。
今の自分に必要で、すぐに成果が表れないことには、積極的になりにくいのです。
もともと勉強ができないわけではないのに,全くと言っていいほどやらない。
そのくせ,ゲーム機のソフト改造など,寝る間を惜しんで何時間でもぶっ続けでやっています。どこにそんな気力と持続力があったのかと驚くほど。
それで息子に質問してみました。
「なぜ,そんなに集中力も持続力もあるのに,その何パーセントかを勉強に振り向けないのか?」
その答えが,上とぴったりで,
「ゲームの改造なら終わった瞬間から楽しめるけど,勉強はやってもいつ役に立つのかわからない。」
私自身は彼の年齢でそこまで実利的に将来を考えたことなどなく,いまやっている勉強は将来に役立つから,あるいはしっかり勉強しておけばお金持ちになれるかも,といった漠然とした期待感くらいしか持っていなかったように思います。
もし,いま学生である彼らの世代の考え方に「即効性のある効果の有無でものごとを選択する」という傾向があるならば,理系の勉強なんて確かにカッタルくてやってられないでしょう。
理系の学科は,数学を基本にして基礎学力を持続的に付けていかないと,体系的な学力が身に付きません。
やったらやった分だけできるということが実感しにくい部分があります。
もちろん公式を暗記すれば機械的に解ける問題もありますが,大学入試くらいになると相応の基礎学力をベースにした応用力が要求されます。
それでも,理系に進めば素晴らしい将来が待っているというなら,実利的な理由でがんばる子供たちが増えるかもしれません。
しかし,実際には理系の職業に就いても,他の職業と比べて収入が格段に高いわけではないし,社会的地位が高くなるわけでもない。
がんばっても,がんばらない人と変わらなければ,あえて理系を選択することはありません。
※実際の理系,文系での給与格差はどのくらいなのでしょうか。次を見る限り,少なくとも将来への投資として努力するインセンティブにはなりそうにないですね。
理系出身vs文系出身 ホントの給与格差
http://next.rikunabi.com/tech/docs/ct_s03600.jsp?__m=1&p=000352
さらに息子はこういうことも言っていました。
「原理が分からないもの(ハード・ソフト)もあるけど,要は使いこなせればいいから。」
確かに彼のゲームソフト改造も,プログラミング言語を理解し,プラグラムの構造を把握した上での作業ではなく,ネットに出回っているマニュアルに従って必要なアプリケーションをダウンロードして作業を行っているだけです。何かを生み出しているわけではないのです。
■技術職だけが魅力の無い職業なのか
理系離れを憂う意見の中に,次のようなものがあります。
「日本は資源の少ない国だから,技術をベースに付加価値の高い製品を輸出して国を立てていくしかないのに・・・理系離れは国力を弱める」
戦後の日本は工業製品(自動車,電子製品,家電製品)の輸出で外貨を稼いできました。一時のバブル期を除き,金融が格段に強いということもありません。
実質的な日本の成長を支えてきたのは技術職なのに,給与を含めた待遇面や社会的な地位で不遇である。だから理系離れが起こってしまい,結果として外貨を稼ぐ力が弱くなり,当然国力も落ちるという意見ですね。
私自身が技術系出身であり,大学院を出た後10年以上技術系の職種に就いていたのですが,やはり処遇面では不遇だと感じていました。
しかし,いま現在,技術系の職種から離れてみて思うのは,技術系だけが不遇なのではないということ。
技術職だけが不遇なのではなく,日本の社会システムが自体が,努力してがんばっている人にとっては不遇と感じられるシステムなのだと感じています。
技術職というのはちょっと半端なところがあって,医者や弁護士といった完全な資格職ではないけれども,上にも書いたようにずっと努力を重ねて専門知識を身に付けるわけです。職に就いても,必要に応じてずっと勉強を続けなければいけない職種でもある。付加価値を生み出すためには相当継続的な努力を払っているわけです。
ただし,これは技術職に限ったことではなく,努力の割には不遇な職種というのは存在します。ただ,理系〜技術職というのは一大カテゴリーとして括りやすいので,特定職種の集団として目立ちやすいという見方はできないでしょうか。
世間一般の見方として,理系は文系に比べて難しい,理系には特殊な才能が必要だからみんなが行けるわけではない,というものがあります。実際,大学入試の偏差値をとってみても理系学科平均と文系学科平均では理系学科平均の方が高い(医学部を入れるかどうかは意見が分かれるところ)。そしてそれは理系を志す学生も自負しているし,実際に理系学科に進学し,理系職種に就くまでもその自負心は続きます。
ところが実際は,他の職種に比べて待遇が格別良いわけではなく,会社の中での昇進スピードも優遇されるわけではない,せいぜいご近所の奥様連中から,ご主人優秀なんですねえなんて言われるくらいです。
自分が払ってきた努力と現に払っている努力からイメージする処遇と実際の処遇があまりに違うという現実があるわけです。
これが理系職種の多くの人に生じるギャップであれば,理系職種,技術職は不遇だという意見になってしまいます。
■優秀な人間への配分を減らして格差を和らげるシステム
日本の富の配分システムはこれで回ってきました。
理系にせよどの職種にせよ,優秀で付加価値を生む人材への富の配分を抑え,それを国民全体で格差が生じすぎないように配分するシステムです。
日本が世界に誇ってきた技術は,個々の最先端技術ではなく,それらを組み合わせた自動車であり,電子製品であり,家電製品という技術の集大成です。
そこで活躍する技術者はエリートではなく,ひとりひとりの顔が見えない集団としての技術者集団です。ホワイトカラー,ブルーカラーの区別が一見するとわからないくらい渾然一体となって働く集団です。
ハイブリッドエンジンを開発したからといって,アシモを開発したからといって,開発した技術集団は個々にスポットを浴びるわけではなく,破格のボーナスをもらうこともありません。ノーベル賞を獲ってもせいぜい役員待遇になる程度です。
高度成長期であれば,みんなの待遇が右肩上がりであったため,特に優秀な人材だからという理由ではないものの,待遇面では不平不満は出てきにくい環境であったでしょう。しかし,いまはみんなの待遇がよくならない状況。がんばってきた人,がんばっている人,優秀な人もそうでない人と変わらない待遇であれば,それらの職種を目指す学生が減ってもしかたないとは思いませんか。
■技術立国であり続けるには
嘆いていても仕方ないのですが,ではこの理系離れが進行する中で,日本が依然技術立国として生き残っていくためにはどうすればいいのか。
単純に格差の無かったものを格差をつけて待遇するというやり方があります。
しかし,これは難しいと思います。
日本は戦後の長い歴史の中で,格差の無い社会を実現してきました。それによって国民全体が豊かになる社会を実現し,犯罪発生率も欧米に比べれば格段に低く住みやすい社会です。これをいまさら個々人の能力に相応した実力社会,格差社会にすることが果たして可能なのか。技術職だけ例外的に他と格差を付けるというのもあまり現実的ではないように思いますし,急速に進行する理系離れの対策にしては時間が掛かり過ぎるでしょう。
先進諸国を見ても,この理系離れが日本よりも深刻な問題になっているところもあるようですし,流れとしては日本で起こっていることと同じですね。
世の中便利になればなるほど,その原理について知ろうとするよりは使いこなす方に興味がいく。また技術によって世の中を便利にするよりは,マネーゲームで資産を増やす方に人気が集まる。その結果,基幹産業を支える技術職=理系職の人材が減少していく,という流れです。
この“理系離れ”というのは,いわば先進国病みたいなものかもしれません。
逆にこれから経済成長を図っていく新興国にとっては,技術は産業発展のベースを成すものですから,社会資源を理系人材育成に投入するというのは国策上メリットのあることです。
(日本のように富の再分配を行って社会主義的にやるのか,国家が介入せず格差を許容する競争社会にするのかはそれぞれだと思いますが。)
で,理系離れに対する対策ですが,要は報酬などを抑えた待遇でも我慢して働くような技術者を確保すればいい話なので,海外から頭脳を導入するという手はないでしょうか。と,書いていて気が付いたのですが,海外の頭脳はより条件のよい国へ流れるので,やっぱり日本には流れ込まないという結果になりそうですね。
そうすると,技術拠点の新興国への移転というのが一番ありそうなストーリーですが,これだと企業は生き残っても国力は弱まりますね。
こういうことを真剣に考えている人たちもいるようなので,ぜひ参照してください。
理工系離れ、理科系離れ、理系離れ
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