マネジメント実験室

小さな企業の経営・マネジメントを通して日々考えたこと、学んだこと、感じたことを。

パワハラは知らぬ間に深刻化する

■職場全体が沈滞

私が経験したのはパワハラという言葉がまだ存在していなかった頃のこと。非常に優秀な部長が赴任してきたときから始まりました。


とにかく私自身は危なっかしい社員だったので,最初から目を付けられていたことは確かです。


それでも,部長と相性のよいマネージャーが間にいるときはさほど目立った直接指導はなかったのですが,マネージャーが異動になって代わった途端,直接指導される回数が格段に増えました。


もちろん厳しいのは私に対してだけではなかったのですが,とにかく逃げ場がないので,ひたすら部長の出すリクエストに応えることだけに専念していたように記憶しています。


部長というポジションですから,マネジメントについて意見を挟める人間はいません。自分のやり方に自信と信念を持っているので,威圧的な指導は職場の隅々まで浸透してしまいます。


職場の誰もが部長の顔色を伺うようになり,部長からどんな課題が出たか,いつまでに報告しなければならないかを影でヒソヒソと情報交換しています。


ムードも沈滞化し,何か新しいことはほとんど部長からの提案でしか動かなくなりました。


■本社人事が動く

職場の沈滞化した様子は本社にまで伝わったようです。内密に聞き取り調査も入ったようで,動きは早かった。


次の異動の時期に合わせて,部長は異動。しかも,完全にルートからは外れてしまいました。


もちろん部員は“ほっと”息をついて,嵐が過ぎ去ったことを喜んだわけですが,いったい何が問題だったのか。


○部長が自分の影響力を過小評価していたのではないか。自分自身の影響で職場があれだけ沈滞化したことになぜ気付けなかったのか。気付いても成果を引き出すことを重視しすぎていたのか。


○部長の強権を助長するマネージャーの存在。相性のよかったマネージャーはとにかく部長の顔色を伺い,リクエストに応え過ぎました。皺寄せは全て部下や部員に波及していた。“裸の王様”が裸であることを気付くチャンスを奪っていたのではないか。


○部長のリクエストに応えられないと“ダメ社員”のレッテルを貼られるという恐怖心が蔓延していなかったか。優秀だと周りが見ている社員ほど,この恐怖心が強いはず。“できない”ことが許されない雰囲気はかなり危険。


■トラウマはなくなったけれど

結局,部長の異動のタイミングと同時に私も異動になってしまいました。この後しばらく,この職場での経験を前向きに評価することができず,記憶の空白期間のようになっていた時期がありました。時間が経つにつれ,自分が集中攻撃を受けた理由とか,部長の焦りとか,そういうことが徐々に理解できるようになり,さらに自分も管理職の悩みを抱えるようになると,肯定はできないけれど部長の行動も理解できるようになりました。


パワハラで悩んでいる場合は,とにかくできるだけ客観的にそのパワハラを行使している人の置かれている心理状況をイメージし,理解するよう勤めてください。その上で,その状況から抜けるために,人事や組合を有効に使うべきでしょう。理解できないと,私のように恐怖心ばかりが先行して,とにかく“期待に応えること”,“目の前の課題から逃げること”ばかりを考えてしまい,自分の置かれた境遇を客観視できなくなります。
それが一番恐い。


恐怖心を感じた時点で,それはやはり通常の健全な上下関係から外れているわけです。まあ,それも今になってみてわかることなんですが。
当時はとにかく必死ですから,ここで脱落したくないという思いばかりが先に立つわけですね。
出世などを気にして黙っていると,それこそ精神的にやられて再起できなくなる可能性もあります。
がんばって報われる努力と,がんばっても自分を痛めつける努力があります。
私ももう少し遅ければメンタル面でやられていた可能性は大きいですね。