- 作者: 宮崎和加子
- 出版社/メーカー: 日本看護協会出版会
- 発売日: 2006/01
- メディア: 単行本
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■現場で実際に看取りを行っている“訪問看護師”が書いた本
対象としているのは,在宅での看取りに関係するであろう“訪問看護師”や“在宅医”,そして“施設職員”である。
これは,看取りを実践する立場から看取りを実践する人たち,あるいは実践する可能性のある人たちに向けた一種の入門書であり,マニュアルであり,メッセージである。
ターミナル患者を抱え,自宅での看取りをどうすればよいのか悩んでいる家族に向けた『在宅での看取りとは何か』といった解説本ではない。
しかし非常に簡潔にまとまっているので,ぜひ家族の方に読んで欲しい本である。
本書の特徴を本文前書きから抜粋する。
1.現場の訪問看護師たちによって作られた
実際の現場の第一線で在宅ターミナルケアを行ってきた看護師が,自分の“失敗”をもとにまとめた本なので,現場にすぐに役立つ(後輩指導に使える)。
2.「声かけ例」をたくさん盛り込んだ
実際の場で,どんな風に声をかければよいのかを,理屈ではなく例としてたくさん盛り込んだ。
3.失敗事例もふんだんに紹介
病院での経験しかなかった看護師は,在宅での死の場面でいろいろと失敗する。それを共有化することによってこそ,よりよい支援ができる。そこであえて失敗事例もふんだんに紹介した。
4.臨死期に焦点を合わせた
ターミナルケアは安定期が長い。その安定期のケアがとても重要であることは十分承知の上で,この本は,「もうすぐ亡くなられるだろう」と判断してから死後までの,特に「臨死期」に焦点を合わせた手引書とした。
5.家族支援を中心とした手引書
ターミナルケアの主人公は,もちろん患者・利用者本人である。本人への働きかけが最も重要だが,本書では「家族」にスポットを当てた家族支援のあり方を中心にまとめた。
■間近な死が予測されてからの流れが充実
前書きにもあるが,臨死期に焦点を合わせて書かれていることが最大の特徴である。
第1章は,死が間近に迫っていることが判断されてからのポイントごとにやるべきこと,気を付けることが簡潔にまとめられている。
やってしまいがちな失敗事例についても書かれているので,事前に目を通しておけば慌ててしくじることもないだろう。
あえて安定期のケアではなく,臨死期のケアに重点を置いたのは,死が予測されてからというのは,家族への確認事項や主治医との連絡事項も多く慌しいので,ミスが起こりやすいと考えたからだろう。このあたりも非常に実践を意識した構成を感じさせる。
臨死期は家族の気持ちも揺れ動きやすく,ちょっとしたコミュニケーションエラーがトラブルにつながってしまう。在宅での看取りを希望していても,直前になって家族が動揺し,やっぱりなじみの病院に入院させ,病院で死亡するケースも多い。
在宅での看取りを希望していると聞いて一生懸命ケアしていたら,実は家族の気持ちが変わっていて,せっかく自宅での看取りが実現したのに恨まれるなどということが起こり得る。
そういう失敗例もしっかり網羅されている。
■家族にこそ読んで欲しい一冊
看取りを含めたターミナルケアを実践する人たちに向けた内容ではあるが,私はぜひターミナルを抱える家族に読んでいただきたいと思う。
例えば,人が死ぬまでの過程で,生理学的にどのように変化していくのかは普通は知らない。そういうプロセスも事前に知識を持っていることで,いざというときに動揺しなくて済むのではないかと思う。
自宅での看取りに対して,純医療的なことを心配する家族は多い。しかし,訪問看護師,在宅医が定期的に状況をチェックし,医療処置を行えば医療的な課題はほとんどクリアできる。
しかし,実際に起こる問題は,患者本人や家族の心理的な動きや動揺から生じるケースが多いのではないか。
看護師,医者といった医療の専門家がメンタル面も上手くサポートできるのが理想ではあるが,家族側の知識があまりにも不足していて,要望だけが非常に多岐に渡っているようなケースだと,変化する状況を理解してもらうだけでも相当な努力を要する。
家族も医療従事者も心に余裕を持って対処できればコミュニケーションエラーも減り,無用なトラブルを回避できる。そのためにも家族がターミナルケアについて知識をもっておくことは重要だと思う。
例えば,『死後硬直したら入れ歯が入らず顔が変わってしまうこともある』といったレベルの細かいことが,自宅での看取りといった一大イベントには起こりうるということを家族が知っているかいないかで,つまらないトラブルは減るだろう。
自宅での看取りは,本人を中心にして,家族,医療従事者,関係者などがみんなそれぞれの立場で本人をサポートするのが理想の形である。
家族があまりにもサポートを必要とする状態は,肝心の本人へのサポートが疎かになる恐れもある。
医療従事者任せではない医療従事者とのコミュニケーションを図れれば,家族みんなが後悔しない“自宅での看取り”の実現に一歩近づけると思う。