マネジメント実験室

小さな企業の経営・マネジメントを通して日々考えたこと、学んだこと、感じたことを。

星野リゾート・星野佳路社長の事件簿

星野リゾートの星野社長と言えば、リゾート再生請負人として、またユニークな経営スタイルの社長として有名である。


経営者・星野氏を知ったのは、『NHKオンライン』を偶然見て、こんな経営スタイルがあるのかと驚いたのが最初である。


ちょうどそのころベンチャーの経営に本格的にタッチするようになった頃で、何でも参考になるものなら吸収したいとアンテナが立っていた頃でもある。


私は星野氏に直接お会いしたことはないが、TVやインタビュー、書籍を通じて知る経営スタイルを拝見するに、非常に正直で、人間性が前面に出るような経営スタイルなんではないかと勝手に想像している。


星野氏はその他優れた経営者と同様、頭の良い方である。だから、慶應を卒業して経営学修士を修了し、家業を継いだ時に感じたギャップは相当なものがあったと思う。氏も言うように、観光業界は中小企業が多く終身雇用も浸透しておらず、また給与水準も高くないので離職率も高い業界、というのは事実。さらに当時の日本の古臭くて閉鎖的な商習慣の中、MBA流の経営手法がそのまま使えるわけがなかったはず。


相当苦労されたんだと思う。


自分の経営(マネジメント)が強引だったり、未熟であるがために人がどんどん自分のもとから去っていくという状況は精神的にかなり辛い。氏はまず最初にこれを経験している。


初期にこのような経験をするのは非常に辛いのだが、私自身を振り返ってみるに、人が去っていく経験があったからこそ自分やマネジメントスタイルを変えられたのだと思う。


人間の組織とは不思議なもので、本当に困ったあげく、自分をオープンにし、助けを求めると必ず手を差し伸べてくれる人が現れる。藁をもすがる思いだから、ちょっとしたことでもそう思うのかも知れないが、必ずと言っていいほど、助っ人が現れるものである。MBA関連の教科書には載っていないが、私は経験上、これは組織運営の法則なんだと信じている。


そして星野氏が辿りついた経営スタイルが、『社長が決めない経営』である。


プロフェッショナル 仕事の流儀〈1〉リゾート再生請負人・小児心臓外科医・パティシエ

プロフェッショナル 仕事の流儀〈1〉リゾート再生請負人・小児心臓外科医・パティシエ


社員自らが決定し、コミットしたことにはやる気を持って取組んでくれる。社長がなんでも正しいわけじゃない。現場が正しいこともたくさんある。だから社長が決めるのではなく社員が決定する。


このスタイルは非常に微妙なチューニングを必要とすることは確かで、星野社長の個性や人柄も勘定に入れてはじめて機能するスタイルかもしれない。経験の裏打ちのない社長がこれをやると、単なる社員任せになってしまう危険性もある。


星野氏のすごいところは、一旦綿密に計画して決定した基本方針を、結果が出ないからといってすぐに変更しないところだ。社員に対してもそうで、結果が出なくても信頼する辛抱強さを持っている。
これは非常に難しいところで、結果が出なければ、どんなに考えて決めた方針でも疑いたくなってくるものだ。社員に対しても信頼は揺らぐ。
その辺りの辛抱強さは、次の書籍を読んでみるとわかる。


星野リゾートの事件簿 なぜ、お客様はもう一度来てくれたのか?

星野リゾートの事件簿 なぜ、お客様はもう一度来てくれたのか?


星野リゾートでは、日々生じるトラブルを“事件”と呼んで、シューティングから再発防止までを徹底してPDCAサイクルで追うようにしている。これは見習いたいところだ。


この事件を解決しながらも、基本方針は変えずに結果を辛抱強く待つ。そうやって社員がついてきて結果につながっているのであるから、論より証拠というところだろう。


ただし、課題が無いわけではなさそうだ。


社長が決めないスタイルやプロジェクトリーダー制、そういうものがほどよく機能していたとしても、組織が大きくなれば必ずしも同じようには回らなくなる。
そういう正直な姿についてもインタビューの中で語られているのが次の書籍だ。


ぶれない経営―ブランドを育てた8人のトップが語る

ぶれない経営―ブランドを育てた8人のトップが語る


8人の経営者へのインタビューをそれぞれまとめたものだが、星野氏のインタビューもある。
結構本音の部分が出ていて面白いなと感じる。


星野リゾート以外にも、ユニークな経営者が顔を揃えていて、どのインタビューも社長たちの意外な横顔が見えて興味深い。


星野リゾートの星野社長の経営スタイルは今後も変わることはないのか、あるいは組織の拡大に伴って変化してくるものなのか、私はウオッチして参考にしていきたいと思う。