マネジメント実験室

小さな企業の経営・マネジメントを通して日々考えたこと、学んだこと、感じたことを。

看護師の働き方を経済学から読み解く

■診療報酬制度の功罪
病院の看護師がなぜ忙しいのか。本来,看護師が分担しなくてもよい周辺業務に,なぜ看護師が投入されているのか。看護師は賃金が高いというイメージがあるけれど,実態としてはどうなのか。こういったことを需要と供給といった基本的な資本経済原理を用いて,わかりやすく解説しています。


看護師の働き方を経済学から読み解く―看護のポリティカル・エコノミー

看護師の働き方を経済学から読み解く―看護のポリティカル・エコノミー


医療サービスは,完全な市場原理に委ねてしまうと,国民が受けられる医療サービスに格差が生じる可能性が高いため,国民皆保険制度に併せて,診療報酬制度によって国が医療サービスの価格決定に介入しています。


日本国民であれば,誰もが安く(3割負担とか)均質な医療サービスを受けることができます。その一方で,医療サービスの質をどう担保していくかは,診療報酬制度のインセンティブにより大きく影響を受けてしまいます。


具体的な例としては,この本の中に述べられているように,看護師の数だけで報酬が決まってくるため,質の高い(ベテランで賃金が高い)看護師ではなく,スキルが未熟でも若い(賃金が安い)看護師を集めて,とにかく頭数を揃えるという経営方針を採る病院が増えることになります。


診療報酬制度(看護基準)改定によって,大手の大学病院が新卒確保に血眼になった理由は,看護師の頭数を揃えなければ,経営難になるという理由によるものです。同じ医療行為を患者に行っても,看護師の頭数が揃っているかいないかで報酬が異なるわけですから,安い労働力を集めようとするのは当然のことですね。


診療報酬制度は,サービスの対価を国がコントロールしようとする時点で,非常に難しい,危うい制度ということができます。


■看護師の地位は向上しない
若くて安い労働力である新卒看護師でも,ベテラン看護師と同じ頭数として扱われるとどうなるか。本来看護師の仕事ではない,役割分担するべき領域の仕事も看護師にやらせてでも,頭数をキープしようとするわけです。ヘルパーや看護助手といった診療報酬に影響を与えない人材を採用するよりは,看護師という資格を持った人間に雑用もやらせておいた方が診療報酬につながるのです。


看護師のスキルが問われない,頭数だけで病院の質が評価されると,看護師の医療従事者としての地位は一向に向上しません。日本の医療では,『看護』という領域の持つ付加価値が全くと言っていいほど評価されないのです。看護師が提供する看護というサービスも,それ以外の周辺雑務という労働も,診療報酬制度からすると,どちらも看護師がやっている仕事としか見えないのです。


■世界に誇れる医療制度であるために
完璧な制度というものはありませんから,診療報酬制度も改善されていけば希望があるのではないかと個人的には考えています。
看護師のスキルを評価して得点化できるシステムとか,看護師の教育制度を評価する制度とか,そういう総合的な評価で診療報酬を決定するようなプロセスがあれば変わってくるのではと思います。


そういうプロセスが面倒になって,いきなり市場の原理を導入すると,それこそ医療崩壊になってしまいそうで恐いです。